西川純のメモ このページをアンテナに追加 RSSフィード

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18/03/02(金)

[]文脈依存 06:28 文脈依存 - 西川純のメモ を含むブックマーク はてなブックマーク - 文脈依存 - 西川純のメモ 文脈依存 - 西川純のメモ のブックマークコメント

 数学で学べる論理的思考力は数学の問題を解くときにだけ使える論理的思考力であって、その他の場面で使えるとは限らない、ということは非効率的のように思えるかもしれません。しかし、きわめて効率的で、合理的なのです。

 「The Oxford English Dictionary」(OED)という辞書があるのをご存じでしょうか。全20冊で構成され、その一冊一冊大判の辞書です。英語に関するありとあらゆる言葉、用法が記されている本です。さて、この辞書を使って高校入試程度の英文を訳した場合を想像して下さい。OEDであれば、引けない単語は存在しません。しかし、明らかに効率が悪くなります。一つ一つの単語を引く度に、新たな1冊を探し、その中から目的とする単語を、膨大な枚数のページの中から探し出さなければなりません。さらにその単語を見出しても、シェークスピアの作品における用法等までも書いてある説明の中で、目的の用法を見出すのは手間がかかります。

もちろん、科学論文を読もうとすれば、高校生が使う辞書ではまにあいません。しかし、だからといってOEDを利用することは無いと思います。その専門に対応した辞書(例えば、生物学の論文を読むならば生物学事典)と、一般の辞書で事足りると思います。

我々の頭の中には膨大な知識・技能が詰まっています。認知心理学では、その記憶容量は無限大であると仮定しています。そうであるならば、先のOED以上となります。もし、そのような膨大な知識・技能の集積の中から、必要な知識・技能を探そうとした場合、砂浜で針を探すようなことになります。

では、我々はどうやって膨大な記憶の中から目的とする知識・技能を見いだすのでしょうか?

例えば、数学の問題を解く中で、ある公式を覚えたとします。その公式には「数学」というラベルが貼られます。また、数学の問題を解く中で、ある思考方法を覚えたとします。その思考方法には「数学」というラベルが貼られます。大学レベルならば、「解析学」、「代数学」、「位相幾何学」というラベルが貼られます。

私たちは数学の問題を解く場面になると、「数学」のラベルが貼られた知識・技能が活性化されるのです。その中から検索するので効率よく検索できるのです。

従って、数学を学べばあらゆる場面に使える論理的思考能力が得られると考えるのは非常に非効率であることは自明です。そんな非効率なことは長い進化の中で淘汰されます。私は、実際の教科学習で文脈依存性を調べました。面白いほど、文脈依存的でした。

追伸 詳しくは「理科だから出来る言語活動」(東洋館)にあります。

追伸 以上は認知心理学における文脈依存性、領域固有性と呼ばれています。それに関しての学術論文は内外に多数有ります。一方、数学で汎用的な論理的思考能力が成長したという学術論文を見た事はありません。

 数学は論理的なんだから、それを学ぶと論理的になるというのは、極めてナイーブ(素人的)な考えに過ぎません。ま、学術的根拠なんてどうでもよくて、「根拠俺」で感情的になる人が多いのは仕方がありません。

 願わくば、大人げない表現を使っていただければと願います。ま、学術的根拠を知らず、非論理的な人の場合は無理ですが。